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2011年5月16日 (月)

「もしドラ」批判

「もしドラ」批判

ベストセラーで、NHKのアニメにもなった「もしドラ」だけれども、なんだかなぁ~と思っている。

私はエンジニアであり、一応、課長という肩書きはあるけれども、マネジメントという面では半人前であると言う自覚がある。ましてやドラッガーの専門家でもマネジメントの専門家でもない。なので割り引いて読んで頂いて構わないのだが、「もしドラ」の最後のセリフはいかがなものか。

甲子園出場を決めた野球部のキャプテンが、どんな野球がしたいのかとインタビューを受けている場面である。

岩崎夏海著「もし高校野球の女子マネージャがドラッガーの『マネジメント』を読んだら」
ISBN978-4-478-01203-1

すると正義は、しばらく考えた後、こう言った。
「あなたは、どんな野球をしてもらいたいですか?」
正義は、インタビュアーに向かってそう言った。
それで、「え?」と面食らったような顔になった彼女に対し、正義は続けて言った。「ぼくたちは、それを聞きたいのです。ぼくたちは、それをマーケティングしたいのです。なぜなら、ぼくたちは、みんながしてもらいたいと思うような野球がしたいからです。ぼくたちは顧客からスタートしたいのです。顧客が価値ありとし、必要とし、求めているものから野球をしたいのです」
そう言うと、みなみの方を振り返り、ニヤッと微笑んでみせたのだった。
(P266)

そもそも、これ高校生の答えかよというツッコミはあるけど無視して考えても、この答えはおかしい。正義くんのセリフに「必要」という言葉はあるけれども、全体として「顧客の要求するものを与えれば、それで良いのだ」という態度が感じられる。顧客優先は良いけれども、顧客が全てを知っていると考えてはいけないのだ。

  *        *       *

同僚の言葉を思い出す「顧客の欲しがるものではなく、顧客の必要とするものを提供せよ。顧客は欲しいものが何かは判っているが、必要とするものが何か判っているとは限らない」。

  *        *       *

P.F.ドラッガー著「マネジメント 基本と原則」
ISBN4-478-41023-2

ここに、いくつかの例がある。
1940年代末から50年代にかけて、フォードが車の安全性の向上を試みた。シートベルトつきの車を売り出した。しかし、あまりに売れなかったため、フォードはシートベルトつきの車から手を引き、安全車という考えまで捨てた。それから15年後、安全意識が広がると、自動車メーカーは、安全性への関心の欠如と、死の商人たることについて激しく攻撃されるようになった。その結果、市民を守るだけでなく、メーカーを罰することに熱心な法律が、次から次へと作られた。
(P94)

日本でもシートベルトは法律で義務化されるまで、冷遇されていた。自分が子供だった40年ぐらい前、父の運転する軽トラに何度も乗ったが、シートベルトは無かったように思うし、シートベルト付きの車しか売られなくなっても、シートベルトをしたがらないドライバーは多かった。義務化されてようやく、シートベルトをするのが普通になった。

日本でもアメリカでも、車を買う顧客・その車に乗る人々(この人達も顧客だろう)も、シートベルトを欲しいとも必要だとも言わなかった。少なくとも多数派ではなかった。

では、車を製造し売る人々にとって「顧客が欲しいとも必要だとも言わなかった」から、シートベルトなしの車を作ること販売することは、正しいマネジメントの在り方だろうか。

あるいは「将来、損をするから付けとけ」は正しい在り方か。

  *        *       *

顧客が必要だとも欲しいとも言わなくても、「顧客の命を護るために」何かをしなくちゃならないんじゃないのか。それが専門家としての在り方じゃないのか。

  *        *       *

なぜ、「もしドラ」について批判的な事を書こうと思ったかと言うと、著者がソフトバンクの孫正義さんについて書いているのを読んだからだ。

NEWSポストセブン:『もしドラ』著者「もし総理を民間から招聘するなら孫正義」
http://www.news-postseven.com/archives/20110516_20267.html

もし、真のリーダーを国政に求めるなら、首相は国会議員の中から国会の議決で指名すると定めている憲法を改正し、民間から招聘するという手段も考えられなくもない。もし私が選ぶとすれば、ソフトバンク社長の孫正義氏である。孫氏のように国難に際し、多額の私財を投じるなどのリスクを背負い、なおかつ信念をもって真摯に行動する人なら、耳を傾けてもいいかな、と思うのだ。

孫正義さんは、優秀な方だと思う。著者の岩崎さんも優秀な方だろう。しかし、マネジメントとしては、何かが欠けている。孫さんのソフトバンクは、CMは上手いしiPhoneというユーザ受けする商品を提供する。それは結構だけれど、顧客の命を少しでも助ける可能性のある緊急地震速報では出遅れている。この事が、私にはシートベルトを無くしてしまったフォードに重なって見える。

孫さんが首相になったら、人気者になるだろう。支持率だって高くなるかもしれない。でも、何か、国民が気がついていないけど大切な何かを傷つけてしまうような気がする。

  *        *        *

国民に受ける事だけではなく、国民が気が付いていなくて、欲しいとも必要だとも思っていない事に気が付いて、「これが必要なんです」と説得できる人間にこそ、首相になってもらいたい。

  *        *        *

「もしドラ」の最後のセリフに戻る。

どんな野球がしたいかと聞かれての最後のセリフ、野球部のキャプテンの正義くんには「野球部に、野球に関わったみんなが幸せになる野球がしたい」と言って欲しかったと私は思う。

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